ビジネスになる?獣害対策としての狩猟とその経営【石川県南部】

大学では地域の環境に関する研究を行っていました。地域の環境といっても様々あるのですが、私の研究室は石川県南部の中山間地域をフィールドに活動していました。中山間地域とは、平地と山地の中間にある地域のことです。

私個人としては新規ビジネスに関する調査に興味を持っており、研究室のテーマと合わせて「中山間地域の新規ビジネス」は何かないかということで、3年生のころからテーマ選択のための題材を集めていました。

卒論のテーマに獣害を選んだ理由

その中で出会ったのが「獣害」です。ただし、何もないところからこのテーマを選んだわけではありません。

私の代の研究室全体のテーマとして「農村」というキーワードがあり、各自でそれに関係するテーマで研究を進めていく仕組みでした。他の学生が「農業」「行政」といったテーマを設定していたので、私は「動物」をテーマに設定し、これが卒論研究の「獣害」につながっていきました。

テーマ選定の理由ですが、新規ビジネスを行っている人に出会いやすそうだったからです。研究の観点でも、地域活性化にまつわるような取り組みを調査したものは多いのですが、「獣害」や「狩猟」といった非常にニッチなテーマでの研究は非常に少なかったです。

新しい分野を切り拓いている感覚があったので、卒論執筆にも熱が入りました。

イノシシによる獣害が多い石川県

まず、「獣害」と「狩猟」のかかわりについて説明します。

獣害とは、シカやイノシシ等の野生獣が畑の作物等を荒らすことによって発生する被害のことです。

野生獣別の被害割合は大きくシカとイノシシで占められていますが、本論文では対象とする野生獣はイノシシに限定しました。

フィールドである石川県の中山間地域は積雪があり、シカは基本的に積雪地域には生息できないためです。野生獣の生息分布のデータ上も、シカは石川県には生息していないとされています。

中山間地域の獣害による被害額は増加傾向にあります。人が住む中山間地域と野生獣が住む山間地域の境界が近づいており、人里に姿を現す野生獣が増えたことや、食糧の増加による生息数の増加等が有力な理由です。

狩猟と狩猟免許

次に狩猟とは、わなや銃を用いて野生獣を捕獲することです。

狩猟を行うためには狩猟免許の取得を行った後、対象の地方自治体に狩猟者登録を行うことが必要です。免許取得に関しては、ハンティングに興味がある人が免許を取得するケースもありますが、地方の住人が食糧の確保や獣害対策に取得するケースがほとんどです。

後者に関しては、銃砲取り扱いの規制強化や後継者不足によって、免許取得者数は減少傾向にあります。

狩猟は指定された猟期にのみ行うことができますが、それ以外の期間にもサルやイノシシ等の有害鳥獣に関しては、自治体指定のもと有害鳥獣捕獲が行われます。

狩猟による駆除のメリット

獣害対策を行うためには畑に電気柵等を設置することがポピュラーな方法ではありますが、狩猟や有害鳥獣捕獲によって野生獣を駆除することも獣害対策の一つです。

前者のメリットは誰でも行える手軽さにありますが、効果は限定的なうえに実際に野生獣の数が減るわけではありません。

後者はちょうどその逆で、狩猟免許保持者しかできない分敷居は高いですが、野生獣の数の抑制をより直接的に行うことができます。さらに決定的に前者と違うのは、野生獣の肉や皮を資源として手に入れられる点です。つまり、獣害対策を行いながら資源も同時に確保できるということになります。

狩猟に関わるビジネスを調査

野生獣から得られる資源を利用したビジネスがないかを調査するために、私は石川県の統計情報とアンケートによって、狩猟免許を保持している人が何人いるのか、実際に活動している人が全体のうち何人か、さらにその中から野生獣を利用して地域で活動を行っている人が何人かを調査しました。

その後私自身も狩猟免許を取得し、地域で活動を行っている人に対してインタビューを行い、うち1つの団体で実際に活動に参加することで、その取り組みについて調査しました。

実際に活動に参加した団体は、農業を行いながらを野生獣の捕獲から解体と加工、販売を行っている有限会社でした。こちらは狩猟者として活動している人は社内で2割程度ですが、捕獲後の運搬や解体作業はその他の社員と共同で行っています。

捕獲したイノシシの肉を加工し、肉のパックや加工食品の製造もおこなっており、そうした製品は山のふもとの道の駅や金沢市の飲食店に卸しています。

獣肉販売で得られる収益

野生獣の利活用について代表の方にお話をお伺いしたところ、最も大きな課題として収益効率の悪さを挙げられていました。

野生獣の解体所はウシ、ブタ等の家畜の解体所と同一の施設を利用できないため、新しく設立する必要があります。

現状、この施設の建設費を獣肉等の販売収益で賄えないといいます。野生獣は家畜と違って好きなタイミングで捕獲できるものではないため、稼働にどうしてもムラができます。野生獣であるため、品質も均一ではありません。

また、飲食店に卸す場合でも、ほかの肉よりは高価格になる傾向があるため、値上げによる販売益の確保も現実的ではないそうです。

さらに経営に着目すると、経営資本で最も大きいのは獣害対策や地域活性化活動を行っている団体に支給される補助金だということもわかりました。当初設立時の意思はどうであれ、現状は第3セクターとほぼ変わらない経営体制になっていることが分かりました。

補助金で成り立つ狩猟の実態

最終的に、野生獣という資本のみで経営を行うのは難しく、ほかの中山間地域の資本も投入する必要があることが分かりました。また、ブランディングや発信を行うためにマンパワーが足りていないという現状も分かりました。

さらに、教授との議論の中で第3セクター的な経営は必ずしも悪ではなく、補助金が資本の大半を占めてもよいのでは、という考えを知りました。活動に参加した団体は実際に獣害対策を行い地域福祉に貢献しているのだから、補助金がおりることはむしろ当然、という考え方です。

つまり、地域振興や地域福祉のために、各団体が個の力で事業を推進するのではなく、地方自治体等の公共機関と密に連携をとる必要がある、という結論に至りました。

ニッチな研究内容はアピールしやすい

卒論全体の反省として、全体的に内容が発散したものになってしまいました。インタビュー結果を提示しているだけで、傾向分析等が甘かった上に、そもそもデータの絶対量が少なかったことは反省点です。

デジタルなデータが不足すると説得力がなくなるため、仮に同じ研究をもう一度やるならば、まずは机上の資料の収集を行い、現場に足を運ぶのはその後にしようと思います。

また、研究と直接の関係はありませんが、わな猟の狩猟免許を取得していたので、就職活動の際、資格欄に「狩猟免許 わな猟」と書いておくと必ず面接官がつっこんでくれるのはありがたかったです。熱心に研究をしていたアピールになったと思います。

夢がないかもしれませんが、研究の結果、私の中では結局「農村で儲けるのは無理」という結論に至り、今は全く研究とは関係ないIT系の会社でシステムエンジニアをしています。ここでも研究のことをちょっとした話のネタにできるので、研究内容がニッチだとちょっとおいしい思いができるということが分かりました。

(文・にふみ)