現在臨床心理士を目指して大学院に通いながら企業で働いています。
企業で働く中、またバイトをする中で、専門職の方が、「○○障害の人はこうだから」と枠にはめて支援していることが多いなと感じました。
その人がなぜその行動をするのか、どういう気持ちなのか考えることなく、枠にはめて決めつけている人が多いのを見て、「支援者がだれかをサポートするために、日常的に○○障害の方を支援する人」が一番偏見を持っているのではないか?
そして偏見があるからこそ、支援の幅が広がらず障害を持つ人は生きづらさを感じ続けるのではないか、もっと偏見が減れば障害を持つ人も可能性が広がるのではと感じ、偏見についての研究を行いました。
発達障害 愛着障害の診断名を聞いた教員はどうする?
私の研究では「発達障害・愛着障害の診断名の提示が該当児への理解や教員としての援助行動に影響があるかどうか」を検討することを目的としました。
この研究を選んだ背景として、発達障害や愛着障害等の障害を取り巻く社会の変化が関係しています。
2014年に「障害者権利条約」が批准されて以来、発達障害者、精神障害者を含む障害者と健常者が共生できる社会にできるよう周囲者が障害者を理解する必要性が強調されるようになりました。
現在発達障害や愛着障害などの障害名はマスメディアなどを通してその認知は広がってきています。そして近年、障害を持つ人への態度や援助行動についても検討され始めてきています。
しかし先行研究によれば、知識や接触経験と障害に対する態度は一貫していないと報告されています。そのため、知見を増やす意味でも知識や接触経験についても合わせて聞きながら今回は研究をしていきました。
発達障害の診断名を聞いた教員が示す3つの傾向
まず最初に結果からお伝えします(研究の方法については記事下の註をご覧ください)。
分析において、診断名の提示と調査協力者の性別の2要因分散分析といって、障がいの診断名があることによる違いで、態度に影響があるかどうか調べています。
その結果、診断名の提示は、
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- 社会的行動的な問題への評価における「問題の深刻さ」
- 社会的行動的な問題への評価における「友人関係への影響」
- 対処や援助への意欲における「教室環境の変更」
の3点において有意差がありました。
①においては、障害名の提示が障害名の診断名がない子どものビネットに比べ有意に深刻ととらえていました。
また②においては、愛着障害の診断名の提示がADHD及び診断名の提示がないものに比べ、有意に影響があるととらえていました。
③においては、ADHDの診断名が診断名がない子どもに比べ有意に教室変更の意欲を示していました。
診断名を聞いた教員は問題を深刻に受け取りがち
①「問題の深刻さ」において診断名の提示が該当児へ物事を深刻ととらえた理由として、現場の先生等からによればADHDや愛着障害などの診断名の提示が「障害特性や障害への鋳型」にはめこんで、その子を判断している可能性があると思われますとコメントいただきました。
障害という言葉が独り歩きをし、障がいがある子ども=この問題は○○障害によるものだから深刻であると、その子どもの行動を余計に深刻にとらえてしまっている可能性があります。
愛着障害児との接触経験がない教員は接し方が分からない
②「友人関係への影響」において愛着障害の提示がADHD及び診断名の提示がないものに比べ、有意に友人関係に影響しそうだと示唆され、その理由として愛着障害児との接触経験が少なく、該当児に対して「よくわからない」ことによるネガティブな評価をした可能性があると報告されています。
その属性(障害等)を持つ人との出会いがない人はある人に比べ、「○○障害を持つ人はどう接していいかわからない…。」と偏見を持ってしまう可能性があります。
ADHD診断名により教員の教室変更への意欲が高まる
③「教室環境の変更」においてADHDの診断名の提示が愛着障害および診断名の提示がないものに比べ、有意に教室変更等の具体的な援助意欲を示した。
その理由として、外国人の研究者によれば、学校は最も一般的な教育的サービスの元であり、それはADHDの子どもたちにとっても特に重要である、との考え方が挙げられます。
そのためADHDの診断名の提示により、ADHDの子どもの学習保障のためにも教室変更等の具体的な支援意欲が高まった可能性があるといわれています。
発達障害 愛着障害の診断名が教員の偏見を生む可能性
つまり、この研究から、障がい名がある子どもは、そうでない子ども(診断名が付かないが同じような行動をする)に比べて行動や症状が深刻であると偏見を持たれてしまう可能性があることが分かります。
そのうえ、まだ発達障害に比べ、あまり知られていない愛着障害を持つ子供に関しては余計に周囲の人としてもどう支援していいのか、どう関わっていいのかわからないのではないか、と考えました。
しかし一方で、障害名がある子どもの方が、そうでない子どもに比べ周囲のサポートを得られやすい可能性があることも合わせてわかりました。
指導教員とこの研究を一緒に読みながら、実際に支援者や教員に対しても調べてみたいねという話をしていました。大学院に行きながら合わせてこの研究についてもしていけたらなと思っています。
註:研究の方法
近畿地方の学生209人(男性70名,女性139名;平均年齢19.92歳(SD =1.02))を対象に質問紙調査を行った。
質問紙において調査項目は次の通り。
- ADHDの想定される子どものビネット
- ビネットに対する評定
- 発達障害に対する知識
- 発達障害に対する実践知
- 共感性尺度
- 発達障害児との接触経験
- 愛着障害児との接触経験
- 社会的望ましさ
- フェイス項目
6タイプの質問紙を作成し調査協力者にはADHD想定される子どもを描写したビネットを提示した。
ビネットを読了後に質問項目への回答を求めた。質問紙で提示するビネットについてはA君、B君、C君と3人の子どものビネットを用意した。
各質問紙にランダムに「ADHD」の診断名、「愛着障害」の診断名、「診断名なし」の3つをビネットの最後にランダムに記載した。
なお診断名に関しては「〇君は昨年アセスメントを受けて○○障害と診断されました。」の様に記載した。
倫理的配慮として質問紙調査の最後にディブリーフィングといい、調査内容について詳しく説明した紙を調査後にお礼と主に配った。なお、解析は分散分析・重回帰分析に関してはSPSSStatistics 24をt検定はANOVA4を用いて行った。
(文・アクア)