プロ野球の観客動員数を左右するものは?スポーツ経済学の卒業論文

経済学でスポーツ分野の研究をする学問はスポーツ経済学(Sports economics)と呼ばれています。

日本では海外に比べてスポーツ経済学の研究は進んでおらず、この分野での論文には希少価値があると思います。

私自身野球観戦が好きで、卒業論文を執筆する際には野球と経済学を絡めたものをテーマにするのが良いと思っていました。

プロ野球は統計学と相性が良く、スポーツの中では学問的にかなり研究されています。

しかし、観客動員数に関する研究はあまり行われておりません。野球は日本で一番人気のあるスポーツです。これから更に球団が増えより大きなビジネスとなっていくと思います。

観客動員数はスポーツビジネスで一番重要な観点であると考え、日本プロ野球の観客動員数をテーマに選び研究を始めました。

スポーツ経済学 観客動員数の4要素

私の卒業論文は、統計分析ソフトを用いて何がプロ野球の観客動員数に影響を与えているのかを調べるものです。

最初に先行研究について簡単にふれておきましょう。

Villar and Guerreo(2009)はスポーツの観客動員数において4つの要素(economical aspect、expected quality、uncertainty of outcome、opportunity cost and other factors)が重要であるとまとめました。

私の論文ではそれぞれの要素がプロ野球の観客動員数に対して統計的に有意であるかどうかを重回帰分析により調べました。

以下では4つの要素の概念を説明した後、計量分析結果を書きたいと思います。

経済的動機 economical aspect

economical aspectは、スポーツの観客動員数を人々の経済的動機から考えるものです。

経済学では所得の変化がある財の消費量に対して影響を及ぼします。

Lee(2004)は「日本プロ野球の観客動員数は正常財である」という仮説を支持しました。正常財とは所得の増加に対してその財の消費量も増加する財のことです。

私の論文ではその仮説を支持しましたが、推定結果では「一人当たり所得が低いほどプロ野球の観客動員数が増加する」ことが示されその仮説は棄却されました。

その理由としては、2004年以前水増しされた日本プロ野球の観客動員数をLee(2004)が統計分析の際に使用していたことが挙げられます。

私はこの推定結果について、不景気になると人々はネガティブな感情をスポーツという娯楽によって解消したいという動機が生まれるのだと推察しました。

パフォーマンスの影響 expected quality

expected qualityは応援するチームが試合で見せるパフォーマンスが観客動員数に影響を与えるというものです。

私の論文では「チームの勝率が高ければ観客動員数が増える」、「チーム打撃成績が良ければ観客動員数が増える」、「チーム投手成績が良ければ観客動員数が増える」、「タイトル争いに加わる選手の数が多いほど観客動員数が増える」という仮説を立て、推定結果ではいずれの仮説も支持されました。

結果の不確実性 uncertainty of outcome

uncertainty of outcomeは日本語訳で「結果の不確実性」と呼ばれます。

スポーツの試合はどのプレイヤーが勝つか分からないのが面白いとされています。本論文では「チーム同士の勝率差が小さくなるほど観客動員数は増加する」という仮説を立てました。

シーズンにおいて1位と6位の勝率差や、シーズンにおいてAクラス内での勝率差(1位と2位、2位と3位、1位と3位)がその年の観客動員数に影響するのかを調べました。

まず1位と6位の勝率差が小さければそのシーズンでは戦力がリーグ全体での戦力が拮抗していると考えられるので、uncertainty of outcomeの程度は高いと言えます。

しかし、統計分析を用いても1位と6位の勝率差が小さいからと言って観客動員数は増加するという結果は得られませんでした。

次に上位チームの首位争いがリーグの面白さにつながるのではないかと思いAクラス内での勝率差に焦点を当てて計量分析をしました。
しかし、分析結果からはAクラス内での戦力均衡具合も観客動員数に影響を与えないことが示されました。いずれも統計的有意性を満たさず、「チーム同士の勝率差が小さくなるほど観客動員数は増加する」という仮説は棄却されました。

その他の要因 opportunity cost and other factors

opportunity cost and other factorsは、天候や試合時間の長さやメディアの露出具合がスポーツの観客動員数にどのように影響するのかを考えるものです。

本稿では試合時間の長さのみを扱い、「試合時間が短くなるほど観客動員数が増える」という結果が得られました。

エース投手が投げる試合は試合時間が短くなる傾向があるため、因果関係の説明になっていると断言できないので今後の研究課題としました。

*計量分析とは推定式を統計ソフトにかけ、各変数が持つ統計的情報を分析することです。

*統計的有意性とは、その変数が推定式に対してどれだけ信頼できるものであるかを表すものです。

卒業論文提出の安堵と発表での後悔

卒業論文提出後は重圧から解き放たれた思いでいっぱいでした。

大学から帰ると倒れるように何時間も寝ていた記憶があります。というのも、卒論前日から当日にかけて徹夜で本文の訂正や表の作り直しをしていたからです。

安心するのも束の間で、提出後のゼミでは後輩の前で自分の研究を発表する必要があり、パワーポイントのスライド作りに追われました。

残念ながら発表では時間制約が厳しく全てを説明できませんでした。消化不良のまま学部の勉強を終えてしまった後悔でいっぱいになりました。

(文・じゅん)