家庭回帰はSNS時代の女性解放?ハウスワイフ2.0現象と日本の主婦

かつて日本は、主婦業などの女役割を否定し、女性が男性と同様に職場で仕事をすることこそが、女性を解放する道だと信じていました。

しかし、私たちが生きている現代の日本の女性を見てみると、SNS等を通じて料理、掃除、メイク、ダイエットなどを発信することでお金を稼いでいます。

現代の女性はこうした女性の役割から想起される仕事を通じて稼いだり、家で主婦業をしながらも他人とつながって自己実現をしています。

今でも一般的に「女性解放」という時、女性が男性と対等に職場で仕事をすることが想起されがちですが、実は日本における女性解放の形は、時代を経て変わってきているということを示したく本テーマを設定しました。

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「女性解放」とは男性と同様に仕事をすること?

一般的に、戦後日本において「女性解放」というとき、女性は男性と同様に仕事をすることで初めて解放されるという、女性の職場進出を擁護する思想が想起されます。

しかし今、「女性解放」の形は、女性が主婦業などの女役割を通して解放される形へと変化してきているかもしれません。

アメリカに見る家庭回帰の潮流

この動きはまず、アメリカで起きました。森杲によると、アメリカでは1990年代に入った頃から、既婚女性の就業率の伸びが以前に比べてハッキリと鈍化し、場合によっては低下する趨勢さえ生まれました。

そして、この趨勢の最大の要因は、大卒女性がキャリアを追求し続けないで家庭に戻るようになったことにありそうだと言います。

リサ・ベルキン「オプト・アウト革命」の登場

この変化を劇的に世間に伝えたのが、2003年10月26日付のニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載されたリサ・ベルキンの「オプト・アウト革命」と題された文章でした。

ここでオプト・アウトとは、ワーキングマザーが自分の意志で職を離れて家庭を拠点にする生活を選び取ることを指しています。

多くの母親がその道に歩を進めることが、昔風の専業主婦に戻るというのではなく、彼女たちこそ新しい社会関係を主導し始めたという意味で、「革命」の看取なのだと言います。

エミリー・マッチャー「ハウスワイフ2.0」の登場

そして2014年、この「オプト・アウト」現象に肯定的評価を与えた専門研究が、エミリー・マッチャーの「ハウスワイフ2.0」です。

彼女はオプト・アウトのような家庭回帰現象を「ハウスワイフ2.0現象」と名付け、単なる保守回帰ではなく新しいフェミニズムだとして肯定的に捉えています。

つまり、彼女は現代において、「職場進出」ではなく「家庭回帰」こそが新しいフェミニズムだと主張するのです。彼女の主張を簡単に以下に紹介します。

昔の専業主婦とハウスワイフ2.0の違い

今、専業主婦になるのは高学歴で進歩的な女性であり、彼女たちは大企業が作ったものを否定し、環境のことを考え、家族を大事にして、なんでも自分でやろうとしている。そして、アメリカの社会を一変させてしまうほどの勢いがある。

彼女たちは会社を選択的に離脱している。「ハウスワイフ2.0」現象の根っこには職場への不満があるのだ。かつての女性たちは、フェミニズム運動が起きて、女性はこれでようやく男性と肩を並べて仕事ができると期待した。

だが、社会は彼女たちの期待に見合うほど成長しなかった。そんな社会に失望して、女性たちは仕事を辞めている。そういう人たちにとって、環境に配慮した生活を自分たちの手で作っていくことが、家族のためにも社会全体のためにもなると信じ、満足している。

ハウスワイフ2.0たちは、いくつかの点で昔の専業主婦と違う。

ネットでつながる主婦たち

まず、彼女たちはブログを活用して、家事・育児についておしゃれにブログにアップしている。そしてそのブログを他人が賞賛する。

このことは家事の復活に重要な役目を果たした。また、一日中自宅にいる孤独な主婦ネットの力でつながったことも、60年代の専業主婦が悩まされた精神的病理を解消している。

オーガニック志向とフェミヴォール

また、オーガニックである。今、手作り食ブームが起きており、中流の生活をしている人たちは、裏庭で野菜や鶏を育てて、パンも自分で焼いている。

健康、経済、環境保護を考えながら料理をする人たちが確実に増えている。このブームによって、かつては退屈でつまらない女の仕事だった料理は、すっかりイメージチェンジして、進歩的でクリエイティブなイメージになった。

このブームにはフェミヴォールの登場が大きく影響している。フェミヴォールとは、化学肥料などを使わない環境に配慮した食材で料理することに全力を注ぎ、それが人生そのものだという考えている専業主婦のことである。

彼女たちは、食を通じてこれまでと違うフェミニズムを主張している。つまり、彼女たちにとっては、創造的な家事を積極的にこなすことがフェミニズムなのである。

以上が、エミリー・マッチャーの指摘する「ハウスワイフ2.0現象」です。この研究はもちろんアメリカの現象に関するものですが、この流れは日本にも起きているかもしれません。

ハウスワイフ2.0現象と日本

このテーマを考察するにあたって、『ハウスワイフ2.0』の第5章「オーガニックである」を分析します。この章に注目することが、「ハウスワイフ2.0現象」を歴史的文脈の中で捉えることにつながるからです。

第5章を簡単に説明すると、本章は前半と後半にわけられます。すなわち、手作り食ブームによる料理の復権を肯定的に描写する前半部分、手作り職ブームにより食べ物(したがって料理、家事)の基準が一気に上がってしまったことを批判的に描写する後半部分です。

簡単に内容を紹介すると次のようになります。

今、手作り食ブームが起きており、中流の生活をしている人を中心に食べ物は買うのではなく自分で一から作ることが流行っている。

このブームにより、料理はかつての退屈でつまらない女の仕事というイメージから一変して、進歩的でクリエイティブなイメージになった。しかし、このブームは健康的な食事を作らないと母親失格という風潮を生んで、女性たちを苦しめている。

以下、第5章の前半部分を分析し、ハウスワイフ2.0現象を歴史的な文脈の中で捉えたい。そして、そのことを通じて、日本にも同様の現象が起こりつつあるのかを考えたい。なお、今回は紙幅の関係から後半部分の分析は割愛する。

オーガニック革命とは

おそらくハウスワイフ2.0現象全体を通して意識されており、第5章で最も色濃く表れているのが、「オーガニック革命」です。これは高城剛の言葉ですが、簡単に言えば、21世紀のイギリスから生まれた健康食ブームのことを指します。

しかし高城によると、このブームは単なる流行ではなく、一大ムーブメントなのです。

(1980年代のデジタル革命を引き合いに出し)……そのときと同じ空気と温度を、僕は2008年のロンドンのオーガニック・マーケットで、はっきりと感じたのだ。僕がそこで見たものは、実体経済から逸脱した資本主義や大量生産・大量消費のライフスタイルが支配した20世紀から、人間らしい生活を取り戻そうとする人々の姿だった。……この潮流は、間違いなくポスト・デジタル時代のあたらしいスタイルになるだろう。

高城が言うように、この潮流はまさに革命と言えます。速水健朗の『フード左翼とフード右翼』によると、失敗に見えた60年代のヒッピーたちの革命が、実はこのムーブメントの背景にあります。速水は以下のように言います。

……一時的なムーブメントでしかなかったヒッピーではあるが、彼らが生み出した文化は、当初の意図とは違ったものとして次第に広まり定着してゆくことになる。それを受け継いだのは、健康志向の強い都市部、もしくは整備された郊外に家を持つようなアッパーミドル層だ。彼らは、ヨガや菜食主義、瞑想などを自分たちのライフスタイルの中に持ち込んでいった。……60年代のヒッピーたちの革命は、本来の反資本主義的な意図は失ったものの、資本主義の手法でもってして30年かけた「社会の革命」に成功したものといえるのだ。

近年のイギリス発の自然食ブームは、実は60年代ヒッピーたちが目指した革命の流れを汲んでいます。この意味でも、現代の女性の家庭回帰現象が革新的な意味合いを持っていることがわかります。

フード左翼とフード右翼

そして、「オーガニック革命」は確かに日本にも到来し、日本人を二分しつつあります。それを証明したのが、先ほども引用した速水の『フード左翼とフード右翼』です。

速水によると、日本人はかつては食でつながれる民族でした。例えば、ラーメンやカレーライスは国民食として、日本人全体が消費する食べものでした。

しかし食で日本人がひとつになれた時代は、終わりの時期に差し掛かっているといいます。現代の日本人は、「フード左翼」と「フード右翼」に二極分化しているのです。

「フード左翼」とは、「工業製品となった食を、農業の側に取り戻し、再び安全で安心なものに引き寄せようという人々」。彼らは有機野菜や天然酵母で作られたパンなどを好みます。

「フード右翼」とは、「産業化した食品産業の商品を従順に消費する人々」。彼らはファストフードやメガフード、コンビニ食を好みます。このうち、「フード左翼」こそ、まさに上記で説明した「オーガニック革命」の影響を受けた人たちです。日本にも「オーガニック革命」は確かに影響を及ぼしているのです。

では、「フード左翼」とはどのような人たちでしょうか。速水は面白い話を載せています。それは、日本において食の政治意識が文断されつつあることについて記した以下の話です。

日本国内でとりわけ顕著なのは、原発事故以後の放射能をめぐる食の安全の問題だろう。「放射能離婚」などという言葉も生まれたが、子どもに与える食の安全に過便になるママと無頓着なパパの対立が、離別にまで至るようなケースを指す言葉だ。……この夫婦の断絶は、「食の安全」への向き合い方の違いによってもたらされたものである。言ってみればこれは、一国のエネルギー問題、政府の基準値をめぐる政策への指示不支持の違いといった政治的な問題においての「政治的見解の相違」である。……夫婦が「政治」をめぐって分断するなど、ちょっと前の日本では考えられない事態が生まれつつある。

確かに速水の言うように、現代の日本において、食や健康により気を使っているのは女性のようです。食や健康に気を使う、いわば「フード左翼」の女性たちは、主婦業を通して女性解放を体現する「ハウスワイフ2.0」であり、ヒッピーたちの革命を引き継ぐ革命家なのかもしれません。

専業主婦は現代の特権的階級なのか

私は学生時代、専業主婦というと、家事をやるために家庭に押し込められたかわいそうな存在だと思っていました。

しかし社会に出た今、家電により家事が省力化されたことで比較的時間に余裕があり、夫の稼ぎで生きていける専業主婦は、時間・金共に持っている特権的階級だと考えるようになりました。

私自身も主婦なので、もちろん家事や育児の大変さは心得ていますし、夫の稼ぎだけではなんでも自由にできるわけではないことは心得ています。

しかし、専業主婦はやりようによってはお金も稼げるし、ある意味では職業なのではないかなと考えています。専業主婦は否定的側面が注目されてきて、実際性別役割分業の存在は否定できないけれど、これからの専業主婦は男性も女性も就業可能な職業として、革命的役割を果たしていくのかなと思います。

(文・竈門さん)