映画作品のフライヤーを分析!日本の観客は「予測可能性の高さ」を重視

卒業論文では映画作品のフライヤーを分析し、現代日本の観客の志向の傾向を考察しました。

この研究テーマの魅力は、映画と観客の関係性の一端に迫れるということです。

選定の理由としては、元々映画を観るのが好きで、「人はなぜ映画を観るのか」「映画に何を求めているのか」といったことを明らかにしたいと思っていたことが大きいです。

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映画作品のフライヤーに注目した理由

しかしながら、言うなればその答えは人それぞれで学問的には実証するのは難しいと悟りました。それならば、作品と観客の接点の一つである「宣伝」という領域から観客の志向の傾向について考えられないかと思うに至り、作品イメージを形作るビジュアルを用いているポスターと互換性が高く、入手が比較的容易なフライヤー(宣伝用のチラシ)を収集して分析することに決めました。

約150作品のフライヤーをもとに観客の志向を考察

フライヤーのデザインやキャッチコピーに多く共通する要素があるならば、それは多くの観客が映画に求めていることの一端を表したものであると仮定し、そこから作品と観客の関係を考える知的興奮がありました。

また、分析のため150作品前後のフライヤーを収集するのも面白かったです。劇場に足を運んで収集するのみならず、映画グッズを専門に扱うショップを探して購入したりと、普段あまりしないことを経験しました。

各作品のフライヤーの出来がそれぞれよく、種類も多様なので、その意図を考察する分析作業が苦ではなかったです。研究に使用したフライヤーは綺麗にファイリングして今も残してあり、自分にとって一つの貴重なコレクションのようになりました。

邦画と洋画のフライヤーを比較

執筆時の過去三年間の興行収入10億円以上の作品である約150作品(邦画及び日本公開の洋画)のフライヤーを実際に入手し、画像情報と文字情報に分けて共通点を抽出し、そのそれぞれについて分野横断的に分析・考察を行いました。

邦画のフライヤーの典型とは?

たとえば、邦画作品のフライヤーのデザインに多用される形式の一つとして、人物がタワーツリー状に切り貼りされた形のビジュアルがあります。

これは、ある俳優さんが「ブロッコリーのようだ」と評したことがある、よく見る典型的なデザインです。

そこから考察できるのは、人物画像の位置や大きさによって物語における重要度が推測できること、すなわち「作品の全体像の予測可能性の高さ」が意図としてあることです。

また、フライヤー上の文字情報も邦画の方が洋画より断然多く、「登場人物に関する情報の提示」や「作品が与える(であろう)感情の提示」、「作品における問題設定」といった機能を果たしており、観客に作品内容と全体像を把握しやすくしている点が顕著でした。

洋画の観客は日本とは求めるものが異なる

一方で、洋画においては(日本公開時にローカライズされたものを除き)このような形式は比較的少ないという傾向があります。

洋画に顕著な(邦画にはあまり見られない)特徴としては、作品本編中の印象的な一場面を切り取ったビジュアルを用いることです。

例としては、「飛行機から振り落とされまいと必死にしがみつくトム・クルーズ」や「今まさに強敵と格闘しているスパイダーマン」といったものです。

この傾向は「予測可能性」よりも、作品におけるインパクトの強い一点に訴求力があることを示しており、日本の観客とは求めるものの傾向が異なることを示唆していると言えます。

日本の映画観客が重視する予測可能性の高さ

このような分析や、それを補足する日本語学・認知言語学・広告学などの研究内容の引用によって、現代の日本の観客が重視しているのは「予測可能性の高さ」であると導くことができました。

「まだわからないもの」よりも「予めある程度わかっているもの」の受容を志向するため、邦画作品独自のタワーツリー型構図や情報量の多いコピーが好まれる、といった次第です。

この論文の結論としては、「現代日本の観客が映画に求めることの傾向は『予めある程度把握した物語の映画としての受容』である」となりました。

卒論発表会で研究内容をプレゼン

自分の好きな分野だったこともあり、期限より比較的早くに提出できました。

年始の卒論発表会で研究内容をプレゼンするのですが、「今まであまりない着眼点で面白い」と言ってくれた教授もいれば、「どういった研究としてどの延長線上に位置付けたいかがいまいちよく分からない」と怪訝な顔で細かいところを詰めてくる教授もおり、壇上で肝を冷やしました。

自身の研究を「分野横断的」と言ってみたものの、都合よくつまみ食い的に様々な分野から知恵を借りている点は否めず、個別の学問分野の深い知見をきちんと理解することや、蓄積された先行研究にもっと敬意を払うことの必要性を痛感して反省しつつ、無事承認されたことに喜んだ冬の一日でした。

また、それ以降、映画作品の宣伝ビジュアルに着目することが多くなりました。今でも自然と宣伝の意図を探ってしまったり、自分だったらこうデザインするとか考えたりしています。

そのため、配信サービス全盛の昨今でも、劇場に足を運んでフライヤーやポスターを見た上で、作品鑑賞を楽しむ方がより面白いと感じています。