日本人の英語に対する苦手意識と、世界で多様化する英語の実態

もし「英語を話せますか?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか。もちろん「ペラペラです」と答える人もいるかもしれませんが、ほとんどの人は「少しだけなら…」「いえいえ、全くできません」と答えてしまいませんか。

街で外国人に道を聞かれてもうまく伝えることができなかったり、海外旅行の帰りの飛行機で「もっと英語を勉強しなきゃ」と反省したりした経験は誰でも一度はあるでしょう。

私自身もその一人でした。中学校から英語を6年間学び、大学でも英語を履修しました。英語は嫌いではなかったため、海外旅行に長期休暇の度に行き、英会話教材を購入し、できる限り英語を習得しようと自分なりに努力をしていたつもりでした。

それでも話せなかった私が一年間東南アジアのある国のホテルでインターンシップに参加したとき、アジアの人々の英語力に驚かされました。今までもアメリカやイギリス、オーストラリアのように英語を母国語とする国以外に、インドやシンガポールのように母国語ではないにも関わらず、英語を公用語としている国があることは知っていました。

しかし、「国際語」としての英語を自由に使っているアジアの人々に接し、英語がこんなにも多様化していることを知りました。そこで、英語への考え方を変えてみることにしたのです。

世界でも英語を「国際語」としてのみ使っている人が多い

今現在、英語は世界の共通語として話されています。英語はENL、ESL、EILの大きく次の3種類に分けることができると言われています。

  • ENL(English as Native Language)とは母語としての英語
  • ESL(English as Second Language)は母語が他言語でありながらも英語が日常生活に欠かせないものであること
  • EIL(English as International Language)は母語は他言語であるのはもちろん日常生活においても英語の使用頻度は少ない

日本はもちろん母語が日本語ですので、EILになります。そして、現代の世界では英語話者の約50%以上は日本人のように英語を「国際語」として使っているのです。

その事実を知ることは日本人の英語教育に大きな変化をもたらすと私は考えています。

インターンシップで経験したこと

インターンシップを始めたばかりのころ、私は欧米人のお客様の対応がとても怖く、辛かったです。「英語ができないのになぜホテルで働けるのか」と思われている気がして、委縮してしまっていました。

そんな時、同僚に言われた一言が今でも心に残っています。「見た目が欧米人でも英語がネイティブ(ENL)であるとは限らないよ。フランス人やスペイン人も見た目はアメリカ人やイギリス人と変わらなくても英語に対する境遇は僕たちと同じだよ。」と。

全くその通りです。先程述べたように、母国語として英語を話している人よりも、第二言語や国際語として英語を話している人の方が世界では明らかに多いのです。そう考えるだけでかなり英語に対する苦手意識が薄れませんか。

その後、私は気持ちが楽になり、どんなお客様にもまずは笑顔で堂々と挨拶をしようと決めました。もし何を言っているかわからないとしても、誰かに助けてもらったり、簡単な英語で言い換えてもらったりすればいいと気付いたのです。「英語が話せない」のではなく、「まずは話してみよう」という意思とその雰囲気を作ることが大切なのです。

シンガポールの「シングリッシュ(Singlish)」

冒頭で、英語が多様化していることについて少し触れました。その一例がシンガポールです。

シンガポールは中華系・マレー系・インド系とさまざまな民族で成り立っている国であり、各々の母国語があるため、公用語は4つあるのですが、英語が第一言語として定められています。

シンガポール人の英語を「シングリッシュ(Singlish)」と呼ぶのは有名でしょう。シングリッシュとは、シンガポール人が彼らのさまざまな言語であるマンダリン(標準中国語)やマレー語を英語に混ぜ込んでおり、発音や文法もいわゆる標準英語と異なっています。

例えば、過去形や完了形、人称なども正確に表現されなかったり、主語が省略されたりもします。また、文末に“lah”や“ah”をつけることもシングリッシュならではの特徴です。以下に例を一つ挙げてみます。

  1. Now we go makan, can or not?
  2. Right now cannot lah.

※makan:マレー語で「食事をする」、can or not?:「~できる?」、lah:終助詞「~ね、~よ」

いきなりシンガポール人から(1)を問われても、きっと理解できないでしょう。

このようなシングリッシュが国内で確立していることを受け、1999年当時の首相は国民の英語を「標準英語」に近づけるべく「良い英語を話そう運動」という対策を始めました。

しかし、シングリッシュが無くなることはなく現在も使われています。なぜでしょうか。ある研究者の論文には、シンガポール人は標準英語とシングリッシュを状況に応じて使い分けていると書いてあります。
シングリッシュは親しい人と話すときに使うのに対して、標準英語は目上の人や外国人に対して使うのです。また、研究者が「なぜシンガポール人は友人同士でシングリッシュを使うのか。」と尋ねると、「もし友人にシングリッシュではなく標準英語を使うと、友人はきっと私を気取っている人と思うに違いない。」と答えたそうです。

このことから、標準英語をシンガポール人の友人間で話すことを恥ずかしく思う感情は、日本人同士で英語を話すときに抵抗があるという感情と似ていると筆者は考えました。つまり、日本語が私たち日本人にとってのアイデンティティであるように、シングリッシュは民族や人種を超えたシンガポール人としてのアイデンティティを自覚するものであり、共通文化であるのかもしれません。

英語はコミュニケーションのツールにすぎない

これまで、世界で英語がネイティブの人だけのものでなく、私たち日本人のような「国際語」としての英語として話されていること、そしてシンガポールを例に挙げましたが、自分らしい形の英語に変化して話されていることがわかっていただけたと思います。

世界で英語は多様化しています。「英語が話せない」と思う日本人が知らなければならないことは、「英語はコミュニケーションのツールにすぎない」ということです。

私自身、英語をネイティブのように話すことはできません。しかし今現在も外国で働き、世界中の人とコミュニケーションをとっています。私が東京で働いていたとき、アルゼンチン人の上司(母国語はスペイン語)は「Today’s meeting was ちょっとlongね。」のように日本語と英語が混ざった言語を話していました。それでいいのです。

「どれだけ上手に英語が話せるか」ではなく、「英語を使ってどれだけ仕事ができるのか」「英語を使ってどれだけ旅行を楽しむことができるのか」「英語を使ってどれだけ外国人とコミュニケーションがとれるのか」なのです。

今まで自分が受けてきた英語教育に胸を張って、まずはぜひとも英語を話してみてほしいと思います。

(文・文学部 2016年卒業 れいれい)