「人口構造の動向と公的医療保険の展望」で卒論を書こうと思ったのは、大学3年生の時、少子高齢化について調べたことがきっかけです。
日本の総人口は毎年減少していて、若者の減少と高齢者の増加が同時に起こる人口減少社会へと突入していることが分かりました。
このまま若者が減り、高齢者が増え続ければ、今後も社会保障給付のニーズが高まり、これから社会人として世の中に出ていく私達の負担が大きくなってしまいます。よって社会保障が今後どうあるべきか考えたいと思いました。
社会保障の中でも医療に焦点を絞ったのは、社会人になって独立し、生活していく場合考えなければならないのは、病気やけがのリスクだと考えたからです。
日本の医療保険制度は国民皆保険です。保険料を納めることで、どこの保健医療機関でも平等に必要な医療を受けられます。
しかし急激な高齢化の進行により、医療費は毎年1兆円規模で増え続け、このままでは世界に誇るわが国の医療制度を将来にわたって維持していくことは困難になるのではないでしょうか。
社会保険の中の医療保険…社会保障とは?
人は一生のうちにさまざまな危険・リスクに晒されます。例えば、病気や加齢、失業や就業中の事故です。
そうした危険・リスクは、日常生活の妨げになり貧困につながります。こうしたリスクに対し、自分達の力だけでは対処しきれません。これらに対し、社会全体で対処して人々の生活をサポートする仕組みが社会保障です。
社会保障には貧困状態に陥ったり、リスクが生じたりした後に対応する事後的な策と、あらかじめ想定されるリスクに対し備えておく事前的な策があります。
また社会保障を実施していくための技術・方法には公的扶助、社会手当、社会保険があります。このうち、公的扶助、社会手当が事後的な策にあたり、社会保険が事前的な策にあたります。
社会保険の中の公的医療保険とは
日本の社会保険には、
- 老後の所得保障などを担う年金保険
- 疾病・傷害に対する医療保障を行う医療保険
- 要介護を担う介護保険
- 失業に対する雇用保険
- 労働災害に対する労働者災害補償保険
の5つの社会保険制度があります。
この内、医療保険とは、被保険者とその被扶養者の疾病、負傷、死亡、出産などを保険事故とし、必要な給付を行う保険です。
また、すべての国民が平等に、さらにフリーアクセスで医療の提供を受けることができる国民皆保険であり、職域保険である健康保険、船員保険、各種共済、地域保険である国民健康保険、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)のいずれかに加入しています。
公的医療保険の特徴
日本の公的医療保険の特徴は、
- 国民皆保険制度である。国民は、市町村が運営する国民健康保険、または職域ごとの被用者保険に加入することが義務付けられている。
- 対象が全国民であり、社会保険方式で運営される。
- 診療報酬決定方法は、中央社会保険医療協議会の答申に基づき国(厚生労働省)が決定する。
- 支払方法は、診療所・開業医は出来高払い制、病院の外来は出来高払い制、入院療養・看護・医学的管理は定額払い制、手術料は出来高払い制である。
- アクセスは、フリーアクセス。
などです。
人口構造の動向からみる医療保険
戦後、わが国の総人口は増加を続け、1967年には初めて1億人を超えたが、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じました。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、わが国の人口は2048年に9913万人と1億人を割り込み、2060年には8674万人まで減少すると見込まれています。
若者の数は、1970年に約3600万人、2010年に約3200万人だったものが、2060年にはその半分以下の約1500万人になると推計されています。また、全人口に占める若者人口の割合を見ると、1970年の35.0%(約3人に1人)から2060年には17.4%(約6人に1人)にまで減少することが見込まれています。
人口構造の動向と医療保険の問題点
人口構造の変化による医療保険への影響は、高齢者の増加による国民医療費の増加が考えられます。
高齢者の場合、一般的に若年層に比べ有病率が高く、慢性疾患が多いなど治療に要する時間も長引く傾向にあります。
また、治癒力も若いころに比べれば弱くなるので、通院や投薬の期間も長くなり、医療費に差が生じやすいです。このため、その医療費は若年層よりも高くなっており、医療費全体を押し上げる要因の一つとなっています。
これらを踏まえると、国民医療費が増加しているのは、
- 少子高齢化、特に医療費のかかる高齢者の増加
- 国民一人当たりの医療費の増加
が考えられます。
また、医療費の増加には、制度改正、診療報酬改定、医療技術の高度化による影響も含まれています。
制度からみると、国民医療費の上昇の要因として、後期高齢者医療制度が考えられます。これは2008年4月に創設され、75歳以上の後期高齢者を被保険者とする制度です。保険料は年金から天引きされます。
患者の一部負担は原則1割ですが、現役並み所得者は3割です。財源は、公費負担が5割、現役世代の支援が4割、高齢者の保険料が1割とし、負担割合を明確化しました。
この制度は高齢者のための有効な制度ですが、今後更に高齢化が進めば確実に財政を圧迫するでしょう。
卒論を振り返って
この問題を考察する際、もっと海外の動向も考慮すればよかったと思いました。
人口減少の問題は各国で起こっているが、対策をとっている国や税制度を変えて医療問題を解決している国もあったからです。
(文・まさかどん )