民俗学の卒論で「おわら風の盆」のフィールドワークを行った経験

高校2年生の時、以前から興味のあった柳田国雄の「遠野物語」を読みました。

妖怪が出てくる怪奇譚と何となく思っていたのですが、読んでみると予想以上に面白く嵌ってしまいました。

そして、柳田先生の「遠野物語」の続きを書きたいと思いました。

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個人での取材は難しい民俗学のフィールドワーク

彼の地に赴き現地の人に鬼の話など怪奇譚を取材し現代版「遠野物語」を書き記し、昔と今の変化をまとめたいと思いました。

しかし、ゼミの先生に相談したところ、個人で一般人に取材をすることの難しさを説かれ断念しました。

「遠野物語」の地に赴き資料館を取材することも考えたのですが、やはり柳田先生のように実際に現地の人に取材をし話をまとめたいと思いました。

他にも、妖怪や神話、昔話などの舞台の地を赴き現在の人々の妖怪に対する認識や伝説の認知度なども調べてみたいという欲望は膨らむばかりでした。けれどもこれらは個人では難しく、似たことで何かできないかと考えました。

祭りに参加しながら行うフィールドワークの方法

そんなとき、民俗学の授業でとある映像を観賞しました。それは、先生がゼミの先輩たちと幾つかの祭りを取材しまとめるという内容のものでした。

仲間たちと作業を分担しながら現地の人に取材をして祭りに参加し一日一日を大切にして色々な場所を訪ね歩きながら祭りを調査していました。

それはとても大変そうで、先生も疲れると仰っていたけれど、同時に楽しそうであり、祭りにただ参加するよりも深く祭りに関わり知ることができることに言いようもない胸の高鳴りを感じました。

私もこの人たちのように祭りを取材しまとめてみたいと思いました。ちょうど時期的に夏休み間近だったのでこの機会を利用しようと思いました。

そして、夏休み中にある祭りは何か探しました。すると実家の方に夏休み中に行われる祭りがあることを知りました。

初めてのフィールドワークであり、金銭面のことも考え、馴染みのある地元で行うことにしました。それが「おわら風の盆」でした。

富山県の「おわら風の盆」とは

「おわら風の盆」は富山県八尾の祭りで、二百十日の台風到来の時節に収穫前の稲が風の被害に遭わないように豊作祈願を願って行われたと言われています。

前夜祭が8/20~8/30まで、本祭が9/1~9/3まで行われます。11の町である「東町」「西町」「今町」「上新町」「鏡町」「下新町」「諏訪町」「西新町」「東新町」「天満町」「福島」がそれぞれ自主的に行っており、共通点はあるものの、その中で独自の躍りや衣装、楽器、歌、ルールなどがあります。町流しや輪踊り、夜流しなどを中心に祭りを楽しみます。

事前準備で八尾図書館へ

しかしながら当時の私はその存在こそなんとなく知っていただけで富山県民でありながら一度も参加したことはありませんでした。

そのため、何の予備知識もなくスタートしました。祭りが始まるまでにできる限りのことは進めておこうと、先生にフィールドワークについて事前に準備しておくべきことやアドバイスなどをいただき、進めていきました。

まずは「おわら風の盆」とはどのような祭りなのかを詳しく知ろうと思い調べました。インターネットに公式HPがあったのでそれを参考に進めることはできました。

けれどもより詳しい資料は実家の図書館にもなく、やはり祭りが実際に行われる八尾に赴かなければ確かな情報は得られないと思い、前夜祭開始前に八尾図書館を訪れました。図書館員の方々は皆さんとても親切で、必要な書類集めを手伝ってくださっただけでなく、快く取材を受け入れてくださったり他に行ってみたら良い場所、さらにはお土産やさんまで教えてくださったりと、大変お世話になりました。

前夜祭の取材開始

そして前夜祭が始まりました。まずは祭りに参加して、その参加者や運営者の方々に話を聞いていこうと思い祭り準備から観察しつつ、観光客の方や地元の方々に取材を行いました。

毎年祭りを訪れているのか、なぜ参加したのか、この祭りの好きなところはどこかなど、思い付く限りの質問をしました。大半の方は親切に答えてくださり、中には場所取りをして一緒に見ようといってくださったり、向こうから私に声をかけ取材に答えてくださる方もいらっしゃいました。

前夜祭の最中は祭りを見て気づいたことや疑問に思ったことをひたすらメモをしたり見物人の方々にお断りをしてから取材をしたりしました。

前夜祭は1日1町が観光客に踊りを披露します。基本的にどの町も輪踊りと町流しを基本としていますが、衣装も躍りも歌も独自の個性があり魅力的でした。前夜祭後は祭りの参加者や運営者の方々の打ち上げに参加させていただき話を聞かせていただきました。

どの町の方々も皆さん快く話をしてくださり、ご飯をご馳走してくだる方もいらっしゃいました。

前夜祭は20:00から始まるので、それまでの間は図書館で調べものの続きをしたり、「おわら風の盆」に関する資料館や博物館、講演会に行ったりして知識を養いました。資料館や博物館では実物の資料や詳しい歴史が細かく勉強でき興味深く、講演会でもおわら風の盆に関わった偉人たちのお話を聞くことができ勉強になりました。

他にも取材中に親しくしていただいた祭りの運営者の方や近所の方から更に詳しくお話を聞かせていただいたり、祭りの舞台である八尾を歩き回りその景観やそこから得た情報などをメモしたりしました。昔ながらの風景がいまだに残り、神社やおじぞうさんなども趣があり歴史を感じました。

取材に協力的な人々

そうして町を歩き回り夕方ごろになると、前夜祭を楽しみにしている観光客の方々がちらほらと訪れてきます。

毎年来ている方が大半で、この町の踊りや音楽が好き、という各町に対する熱意を持つ方が多く、この町は歴史があり踊りも上手いことで人気だ、あの町は参加人数が多く迫力があるなど、私の知らない現在の祭り事情を教えてくださいました。

そんな中出会った観光客の方で、柴犬を連れたご夫婦がいらっしゃいました。犬が可愛かったのもあり話しかけたところ快く取材に応じてくださいました。

毎年前夜祭から参加していること、車で泊まり込み見物するつもりだということなど、色々とお話ししてくださり、最後には住所を交換して年賀状を出しあおうという話になりました。

多くの観光客の方々には親切にしていただきましたが、ここまで親密にしてくださった方は初めてで、とても嬉しかったです。地元の方も優しい方々ばかりで、話によると私の他にも地元の高校生たちが授業の一環で取材に来るので慣れていること、祭りのことをもっと知ってほしいことなどを教えてくださりました。

そもそも前夜祭自体、本祭があまりにも観光客で混み合うので観光客分散の目的で設けられたものだということを知りました。また、論文が出来上がったら見せてほしいと住所を教えたくださった方もいらっしゃいました。

前夜祭と本祭の違い

本祭は三日間連続で行われ、前夜祭とは比べ物にならないくらい多く、泊まり込みで人が訪れます。他県からの観光客も多いため、八尾内の旅館は一年前から埋まっているそうです。

また本祭には夜流しというものがあり、祭りのあとに希望者が自由に町流しを行うというもので、ほとんどの観光客も去り、明かりも消え、川の静けさも相まって幻想的な雰囲気に、観光客の中には夜流しを一番楽しみにしている人もいました。

前夜祭は一日につき一町が踊りを披露していましたが、本祭では各町が三日間踊り明かします。夜流しもあり終わる時間は町や踊り子たちによりますが、大体早くて午前一時、遅くて午前五時です。

そのため私も近くに宿をとろうと思いました。しかし祭り間近になってから探したためどこも空いておらず、やっと福島の宿を借りることができました。

全ての町の様子を観察・取材したかったので、本祭は前夜祭より歩き回りました。スケジュール表が観光客用に配布されているのでそれを元に、時間帯毎に各町を見て回りました。

前夜祭より規模も大きく、町流しも自分達の町の範囲外を踊るので、他の町の人たちとすれ違うことが多々ありました。観光客の他に、大きなカメラで本格的に写真を撮る人や録画する人、テレビ局の人、屋台も出て活気溢れていました。

輪踊りでは踊り子たちが輪になって踊り、参加したい一般人も参加できるので、地元の方たちの他に、他県からきた踊り子の方たちも一緒になって踊っていました。他県の踊り子に話を聞いたところ、「おわら風の盆」は踊り子たちの間でも有名で、毎年参加する人が多いということでした。

町の人や観光客、それぞれの立場の話を聞いたところ、どちらも真に祭りを楽しみんでいることがよくわかりました。特に町の人たちは、一年前から各町ごとに祭りの準備をし躍りも年毎に独自に考え、自分達が踊ることを楽しむために祭りをしていることがとても伝わってきました。

踊ることを楽しみ、若者に支持される「おわら風の盆」

祭りの起源は豊作祈念ですが、昔も今も八尾の人たちにとって「おわら風の盆」は踊ることを楽しむためのものだと思います。

夜流しはその最たるもので、観光客も減り誰かに見せるということもなくなり、自分達が好きなような踊れる時間です。若者は大きな声で歌い騒ぎ年長者は静かに夜の町を流します。その後を残った観光客がついていき楽しみます。

夜流しは本祭のときよりも移動範囲も時間も長いので、他町の人たちとすれ違う確率が多くなります。その際は互いに譲りながら町を流し、時おり休憩しながら自分達の町へ戻っていきます。終わる時間も町により異なるので朝まで踊り明かし夜明けを拝むことも多々ありました。

少子高齢化が進むなか、「おわら風の盆」は若者たちに圧倒的支持を受け、進学や結婚などで一時的に町を離れた後もまた戻ってきて躍りに参加することもあるということでした。

祭りの行われた昔は豊作祈念を目的としていたのだと思いますが、今は町の人たちが祭りで踊ることを楽しんでおり、そうやって祭りが若者に受け継がれており、それこそ祭りの本来あるべき姿だと思いました。

取材で知り合った人との交流が続く

資料からわかる祭りの歴史や偉人たちの活躍をまとめながら、体力勝負の取材を毎日行っていたので、とても疲れて一日くらい休んでもいいんじゃないかと思うときもありました。

しかし、町の人たちは毎日踊りの練習をしているのだと言うこと、ここまで来たからには最後までこの祭りを見届けたいという気持ちが勝り、取材を続けられました。地元の方たちが優しく取材に協力してくれたことには大いに感謝しています。この方たちがいなければ卒業論文も完成しませんでした。

また、取材先で仲良くなったご夫婦からは年賀状と苺を戴き、卒業論文を渡す約束をして伊田町の人にも無事渡すことができ、社会人になった今も毎年祭りを楽しみにして訪れ挨拶しています。

祭りの意義や祭りに参加するすべての人たちとの交流、そしてフィールドワークという貴重な体験を通して自分なりに学び成長できたと思います。卒業論文のためのものではありましたが、自分のお気に入りの祭りを見つけられたことも大きな収穫です。