犯罪が成立しないケースとは?違法性阻却、責任阻却、特に期待可能性について

期待可能性理論は、刑法総論の中でも、学説が多岐にわたります。

裁判例でも適用の有無が裁判官により分かれており、難解な理論と言われています。

難解な問題にチャレンジし、諸学説を整理して独自の法解釈を試みることに魅力を感じ、卒業論文のテーマに選びました。

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卒論のテーマ「期待可能性」

ニュースではさまざまな事件が報道されます。その中には、犯罪のように見えても犯罪が成り立たないものがあります。

どのような場合に犯罪が成り立たないかについては、多くの人が漠然とではあっても理解されていることでしょう。

例えば、年齢や精神状態によって責任能力がないと見なされた場合。あるいは、自分の身を守るために仕方なく反撃して相手を傷つけた場合、などは犯罪にはなりませんよね。

「期待可能性」というのは、一般的にはなじみのない言葉でしょう。これも、犯罪が成立しないケースと関りがあります。

ここでは、私が「期待可能性」をテーマに取り組んだ卒業論文の一部をご紹介します。

こちらをお読みいただくことで、犯罪が成り立つのはどのような場合なのかが、より理解しやすくなるはずです。また、期待可能性をめぐって論争が存在するということを知っていただけるでしょう。

犯罪が成り立つとはどういうこと?罪刑法定主義とは

犯罪が成立するためには、先ず、刑法典が規定する犯罪構成要件に該当する必要があります。

窃盗罪を例にとると、現在の改正刑法典第235条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されています。

窃盗罪が成り立つためには、この「他人の財物を窃取した」客観的事実が着手された事が必要となります。

このように、犯罪とそれに対する刑罰を規定した関係を、罪刑法定主義と言います。

これがなければ、人々は、何が法規範によって規制され処罰されるのかを理解出来ません。また、刑罰が恣意的に行われることになり、安心した社会生活を送る事が出来なくなります。

犯罪が成立しないケースとは

犯罪が成立するためには、犯罪構成要因に該当する客観的行為が、刑法典によって違法性を持つものに該当しなければなりません。

正当行為や正当防衛は違法性を持たないので犯罪にはなりません。

医師の正当行為

例えば、医師は手術を行いますが、この行為は人の体にメスを入れるという行為のみに着目して素直に解釈すれば傷害罪または暴行罪に該当する行為です。

しかし、手術は医療行為として医師免許が付与された者に正当な業務の中の一つの行為として許されたものとされています。

正当防衛における違法性の阻却とは

次に、刃物を持った者が自分に襲い掛かってくるというように、生命を脅かすような行為に着手した場合に、自分の生命を守るために抵抗したケースを考えてみましょう。

抵抗した結果、刃物を持った者が誤って刺され死亡したとします。このケースでは、本来なら傷害致死の結果を構成する事になりますが、「不正」対「正」の行為として正当な自己への防衛行為として違法性が阻却されることになります。

心神喪失または心神耗弱による責任阻却とは

犯罪が成立するには、その行為が、刑法典によって非難する事が出来なければなりません。

心神喪失または心神耗弱、つまり、行為を行った者が、行為の善悪の正しい判断が出来ない中で着手した場合、そして、責任年齢つまり、14歳未満の者は、まだ社会で善悪の客観的判断が完全に出来るとは言えないものとして、責任を負わせない、つまり有責性を阻却されます。

期待可能性の解釈をめぐって

そして、もう一つの考慮され得る責任阻却理由が、「期待可能性」となります。

例えば、フェリーが荒天の海上で座礁の末転覆したとします。

乗客は自分の生命を守るために救命胴衣を確保しようとします。しかし、全ての乗客数の救命胴衣はありません。

ある乗客Aは、自分の生命を守ろうと、すぐ側に救命胴衣を掴んで漂流していた乗客Bを見つけます。その時、咄嗟にAはBの救命胴衣を奪い取り漂流し、結果、Aは救助されたがBは溺死してしまったとします。

このような状況においては、乗客Aに対して救命胴衣を奪ってはならないという判断と行為を期待する事が出来ません。救命胴衣を奪わなければ乗客Aが溺死してしまうでしょう。これが、「期待可能性がなく責任を阻却される」ということです。

しかし、刑法典は、期待可能性について、条文で規定をしていません。そこで、この理論をどのような位置づけとして解釈運用するかが、学説で対立し、裁判例でも適用についての可否が分かれる所以となります。

平均人標準説を根拠とする自説を展開

期待可能性に関しては、刑法典に明文規定がないところから超法規的に解釈する上で、正当行為、正当防衛、緊急避難を法的根拠に超法規的に違法性が阻却されると解すべき学説群があります。

また従来より、行為者標準説、国家標準説、平均人標準説が大きな学説として展開されています。

私は超法規的に有責性が阻却される学説の二大対立を、過去の様々な判例も含めて理解と整理を試みました。

そして最後に、どのような解釈が法解釈的に無理のない自然なものであるべきかについて私自身の知見として言及しました。

私自身は期待可能性が問われる行為について「平均人標準説」、つまり、社会に暮らす一般の人であればどのような行為を選択して実行するであろうかを判断の基準とする説を根拠として、有責性が超法規的に阻却されるべきであると結論づけました。

卒業論文に取り組んでみた感想

指導教授からは、口頭審査で、学説の対立と裁判例の運用状態についての質問と、私自身はどのように法解釈したかについて問われました。

当初の構想ではもう少しシンプルに学説の対立を整理し、自分の法解釈を導き出せるかと考えていましたが、学説の各主張は法理論として大変難解で大変苦労したのを覚えています。卒業論文は1年間でまとめなければなりません。選んだテーマにもよるのでしょうが、時間的余裕が足りないものがあったと感じました。